ジョーの金

ジョーの金の出所について、少しばかりの時代検証を経て自分の中での結論が固まった。なぜ、こんなにジョーの金の出所にこだわるのか。ジョーの持つ金が真っ当なものなのか、そうでないのか。それがジョーの憎しみの矛先や作品自体のトーンに大きな影響を与えると感じているからです。

 

結論から言うと、ジョーは投資家だろうと思っている。それも戦争特需にあやかった軍事産業を主な投資先としているんじゃないかと。

 

少しだけ時代背景を説明*1

まず1914年~1918年の第一次世界大戦。ここで重要なのは、アメリカ自体は戦場にならず、ヨーロッパが荒廃する一方で、軍事兵器の生産や輸出により巨万の富を得たということ。いわゆる戦争特需。そのままバブルへ突入。1920年代後半まで投機ブームが続く。猫も杓子も株式投資といった状態で、少なからぬ者が株を購入するために借金までするようになる。(靴磨きまで借金して株を買った、といった表現も見ましたが、どうなんでしょうね。)

そして1929年9月24日に、暗黒の木曜日と呼ばれるウォール街の株価大暴落がおこり、企業や銀行が次々に連鎖倒産。経済大国となっていたアメリカ国内の恐慌だけにとどまらず、世界恐慌となる。

そのまま1930年代は不況にあえぎ、1939年9月1日のドイツによるポーランドへの侵攻により第二次世界大戦が始まる。この時、アメリカの立場は中立。1935年に中立法が制定されており、基本的には孤立主義を貫いていた。その後、1941年3月に武器貸与法を成立させ、同年8月には事実上の参戦状態となった。

 

舞台は1939年10月*2。サンフランシスコの酒場。不況にあえぎ、他国とは言え戦争の影が色濃い時代。と思うのだけど、サンフランシスコでは1937年に金門橋(ゴールデンゲートブリッジ)が完成しており、戦争もアメリカは不参戦という意志を表明しているので、さてこれはどう解釈すればいいのか。更なる検証が必要なのかもとも思っている。

 

それはさておき、そのような背景でジョーの金の出所を推察する。

 

セリフから抽出できる設定は、アイルランド系の移民で幼い頃は苦労して働いた。今は働いていない。「神のご加護が必要」で、「貧しい人たちのなけなしのお金」を搾取して「金が金を生む」ような場で金を得ている。「こんな時代が続く限り」金には困らない。

貧しかったので元手はそう大きくないだろう。その日暮らしだっただろうから、真っ当に起業して会社経営をするような状況ではなかったと思う。起業にも会社経営にもそれなりの資本金が必要だから。ギャンブル好きなことを考えれば、(神のご加護、つまり運よく)ギャンブルで一山当てて、そのお金を転がしたと考えるとしっくりくる。時代を考えると株式投資が有力だ。しかもその時代の花形、軍事産業への投資。

戦争のおかげで投資に成功した。富を得て上流階級へ仲間入りした。運だけでは投資は成功しないので、時代を見る嗅覚もあったのだろう。鋭く、少し粗野で、しかしどこかエレガントな佇まいに合致しないだろうか。借金してまで投資をしていた時代とのことで、なけなしの金がジョーの懐に転がってきている辻褄も合う。暗黒の木曜日を生き延びた投資家だとすれば、大恐慌もその嗅覚で乗り切っているのだろう。

高利貸しの可能性も考えたが、これはもう主観のみでジョーの佇まいに合致しない。その時代の高利貸しがどのような位置づけだったのか分からないが、貧しい人達から回収しなければならないことを考えると、もっと荒んだ人間になりそうだ。戦争を殊更憎む動機としても弱い。むしろ、近しい人にはあげるつもりで金を貸しているんじゃないかとも思った。トムの就職先、「それは忘れてくれ」でそう思った。社長とつながりがあり、無理を言える恩がある。根拠は何もないのでただの想像だけど。

 

さぁ、どうでしょう。ジョーの金の出所。他にはなかなか考えられないなぁ。

 

 

*1:ネットの海を彷徨って引っ張ってきた情報です。大きな間違いはないと思いますが、参照先は多岐にわたり、しかも勝手にまとめているので参考文献の提示については勘弁してください。

*2:サローヤンが執筆したのが1939年5月8日~13日。初演は1939年10月7日。